2000年 劇場用映画『アンチェイン』


大阪公開番外編!

プロデューサー/土井智生

“感動”それは人の心を豊かにするものである。
アンチェインの製作を携わることで金では買えない人間的な感動を幾つも与えてくれた。
大阪は文化的な感動を与えてくれた。
その一つに(食)がある。
そしてこの話は大阪公開番外編として翌日の話である。

「ピ・ピ・ピ・ピ」 目覚ましが鳴っている。
時間を見ると11時を少しまわったくらい。
うん?ここは何処だ?ホテル?あぁそうか、大阪に来ている。
頭が痛い。
記憶を辿って見るが、打ち上げの後半の記憶がない?
僕は酒をシコタマ飲むと脱ぐ癖がある。
ヤベー昨日もやっちまったか?
同室のリトルモア浅原さんに訪ねるが、いつもの僕で脱いでは無いらしい。
あーヨカッタ。
今日 6/17日(日)実はこの日大阪公開トリップのもう一つのメインイベント(桃太郎のお好み焼きを食べる!)である。
この話をするには、アンチェインを製作する前に遡る。

僕は生まれも育ちも東京、池袋。生っ粋の関東人である。
大阪へはこのアンチェインの製作に携ることで初めて行くこととなる。
お好み焼きをそれまで何度か食べたことはあるが生地はモッタリ、ソースはベッチョリで正直旨いと思ったことは一度も無い。
東京にいる関西の人は皆口をそろえ(東京のお好みはマズイ!)と言うのである。
なにを言ってやがるんでい!
東京には日本中の旨い物がそろっているんでい!
そこまで言うのであるのなら良い機会だ試してやろう!
そしてやっぱり旨い物は東京だ!
・・・・・時は過ぎて、撮影の為初大阪。
監督、僕そしてインタビューの為アンチェイン梶さんの3人で監督の地元布施にある(南禅)というお好み焼き屋に向かう。
梶さんは自分の中でお好みランキングなるものを持っていて(梶さんは何ごとにもランキングを付ける人で、例えば巨乳ランキングでは、AV女優のいとうしいなが第一位)南禅は第三位だそうだ。
店構えは昭和30年代にタイムスリップしたか?と錯覚してしまうくらいシブイ。
中へ入るとプ~ンとソースの焦げるにおい。
これは日本人ならば地域問わず皆懐かしい気持にしてくれる。
壁を見るとたぶん開店以来掛っていると思われる、油の染みついたメニューの数々。
僕はその中から(南禅スペシャル)を注文する。
店の名前が入っているくらいだオススメだろう。
具は忘れたが色々入っていた。
一通りインタビューを終え、生ビールをゴクリと飲む。
プハ~やっぱり旨い。
しかしこのビールを生かすも殺すもツマミが旨くてはならない。
今回はお好み焼きだ、これが焼き鳥ならばと思っていたところ、やってきました(南禅スペシャル)が。
うん?ヤケにデカイぞ?厚みもある。
ほほー、痩せの大食い大食漢の僕にとっては大きさは合格。
しかし旨く無くてはネ。
デカいだけではただの木偶の坊、映画で言えば悪役大富豪の用心棒だ。
味付けは梶さんにお任せ。
マヨネーズたっぷり、ソースたっぷり、オイオイ!そんなにつけたらしつこいゾ!と心の中で叫んでいたが、郷に来たら郷に従えと黙っていた。
箸は使わずにコテのまま食べるのか。もんじゃのようだ。
お好みを四つに分ける。
おっとっと、再びビールを一口飲んで、口の中をクリアーにしなければ。
これは僕が必ずやる儀式だ。
そして本場大阪のお好み焼きを味わう時が来た。
熱そうだ、しかしここでフーフーしたら男が廃る、東京の舌と大阪の味の闘いだ!
エイヤーとばかりに口の中に運んだ・・・・・
ズド-ン!頭の中に雷が落ちた!
な、な、な、なんじゃこりゃー!(松田優作風)
めちゃめちゃ旨い!旨いのである!
生地はフワフワ、シツコイであろうと思われたマヨネーズとソース絶妙なバランス!
ビールとの相性は最高!鰹節の踊りがまるで竜宮城の美女のようにオイデオイデと手招きしている。
もう、それからは一心不乱に食べた、食べまくった。
完敗である。
東京の舌は負けたのだ。
ランキング第三位でこれだけ旨いのだから、第ニ位、第一位がものすごーく気になる。
梶さんに訪ねた。
すると第ニ位は桃谷にある(オムニ)、栄光の第一位は大池橋にある(桃太郎)だそうだ。
あくまでもこれは梶さんのランキングであり、大阪滞在中に出会う人皆に第一位を聞くが1人として同じ店の名を上げた人はいない。
お好み焼き屋の層の厚さはサッカーで言えば、セリエAである。
ちなみに、監督の第一位は布施の(みよし)である。
この店は映画本編にも出ているが、ここのトンペイ焼きは絶品である(トンペイ焼きが分からない人はアンチェインを見てネ)もちろんお好み焼きも。
それからと言うもの何を食べても旨い。
タコ焼きはもちろんのこと、うどん、串揚げ、鶴橋の焼肉、etc・・・・
しかし、なんで大阪の食い物は安くてうまいんだ?
東京の半分~2/3の値段で至福のひとときが味わえる。
大阪商人よ!すばらしい!I love 大阪だ!
撮影中のストレスの捌け口を食いに求めた為、なんと1ヶ月で8Kgも太ってしまったトホホ。
撮影スケジュールの為結局第一位の桃太郎のお好み焼きだけ食べることが出来ずに後ろ髪を引かれる思いで東京へ戻ることとなった。

話は戻り6/17(日)昼、心残りだった(桃太郎のお好み焼きをたべる!ツアー)を監督、川崎君以外のスタッフと共にホテルを出発(監督、川崎君はホテルで爆睡)。
桃谷駅で梶さんと梶さんの友人テッサンと待ち合わせ。
駅から桃太郎のある大池橋まで徒歩で移動。
道中僕は本場お好み焼き初のスタッフに上記に書いた感動を熱弁していた。
雰囲気のある長い商店街を通過して行く。
この商店街にはいくつもの誘惑があった。
おいしそうな和菓子屋さん、タコ焼き屋、イカ焼き、しかしこの誘惑にまけてはならない。
その先には桃太郎のお好み焼きがあるのだから。
商店街を抜けるとこれまた雰囲気のある町並み、そしてなんだか懐かしい感じがする、そう!僕の幼少時代の池袋付近に似ているのだ。
なんと三輪トラックのミゼットがあるではないか!
それも現役で!
ファンタスティック!

そうこうしている内に住宅街の中にポツリとある桃太郎に到着。

う~ん店構えは申し分ない。百点満点の合格!!

さすが梶さんのランキング第一位だ、これぐらいで驚いてはいけない。
待つこと数分、やって参りました、僕らの番が!
店に入ると採点基準である油の染みの付いたメニュー有り合格!
お好みトッピングは梶さんにおまかせ。
イモ、豚、チーズ、ネギ、とイモ、豚、キムチ、ネギとイモ、ホタテ、イカ、ネギの三品を注文、ここで梶さんが一言「ここはな、必ずイモを入れること」これまで、大阪のお好み焼き屋は6件食べているが(いずれも絶品!)イモを入れるのは初めてだ。
心臓はドキドキ、心はワクワク、もうオシッコちびりそう~!
とりあえず気持を落ちつかせる為生ビールをゴクリ。
この日は暑くビールがたまらなくウマイ!
隣の鉄板を見ると親子で焼そばを食べている!
すかさず追加注文。
くそー待ちどうしい、ふっと実家で飼っていた犬のボビーを思い出した。
餌を与えるのは僕の役目だった。
夕方になると餌が待どうしいのか吠えまくる。
そしてボビーの前に餌を出すが、(ヨシ!)と言うまで待つことをしつけていた。
僕はいつも意地悪をし、(ヨ)が最初にくる単語を並べて焦らしていた。
例えば(ヨッ・ちゃんいか!)や(ヨッ・色男!)など。
するとボビーはイライラして吠え出したりその場をぐるぐる回り出したりした。
まさに今の僕はボビーだ。
スマン、ボビー許してくれ今お前の気持が分かった。いまにも回り出す勢いだ。
すると汗だくの店員さんが(お待ちどう)の声とともにお好み焼きを目の前の鉄板に置いた。
あぁなんて美しいのだ、今の君はダイヤモンドより何十倍も輝いて見える。
味付けは今回も梶さんにおまかせ。
たっぷりマヨちゃんにたっぷりソースくん、おっとと蒼ノリさんも忘れずにね。
最後に鰹節嬢のなやましい腰つき、お好みの上はまさにハーレム状態。
コテで四つに分ける。
もう食べ方は誰にも教わらずに身体に染み付いている。
僕のビール儀式を終え、ヨッ待ってましたお口に入る時が!
あーん、はふはふ、モグモグ、うっうまい!
もうお口の中でお好みチャンがハーモニーをかなでている。
そしてイモだがこれはサイコ-にすばらしい!
他の店でもメニューに加えるべきだ!
お好み焼きの幅がより一層広がる。
皆さんもぜひ試してくれたまえ。
ほっぺたが落ちちゃうヨ。

とまぁこんな感じでもう一つのメインイベントは終了するわけだが、本場のお好み焼きは人に感動とはなにかと再確認する機会を与えてくれた。
お好み焼きに感謝である。
しかし梶さんランキングのお好み焼きはすべてうまかった。
僕の中ではすべて同率一位だ。
ココ迄レベルが高いと好みの差でしかない。