2000年 劇場用映画『アンチェイン』


祝! ガルーダ・テツ 引退

プロデューサー/土井智生

 映画『アンチェイン』に出演している4人の内、唯一現役プロキックボクサーとして活躍し、決して退かないそのファイティングスタイルで多くのファンを魅了したガルーダ・テツが平成12年12月9日、後楽園ホールにて、対小野瀬邦英戦(日本キックボクシング連盟主催)を最後に選手生活に幕を閉じた。

 クリスマス色が色濃くなる寒空の中、僕は後楽園ホールに向かった。ガルーダの応援の為に。5度目になる小野瀬との対決。因縁の対決。ホールに響き渡る軍歌。いつもの様に入場するガルーダ。しかし何かが違う。そう今日は彼がリングを去る時。格闘技をプロとして闘う者には必ずある終り。引退…。
 ガルーダさんとの出会いは4度目の小野瀬選手戦だった。まだ映画(アンチェイン)の企画が正式に動き出す前、監督(豊田利晃)が1人で4人を追っていた時期で、試合の内容を収めるカメラマンとして行った時だった。会場に着くと挨拶をするため、監督と控室にむかった。それまで格闘技にはまったく興味が無かったが、選手というものは試合前、集中力を高めるため、恐怖を振りほどくためストイックになると思っていた。実際多くの選手がそうだろう。しかしガルーダさんは僕の想像を裏切るように明るく高らかな声で「初めましてガルーダです!今日はカッコよく撮ってや!ワッハハハ!」。セコンドに付く、のちに出演者の1人と解る西林さんとの漫才の様な掛け合いに、圧倒された。試合はガルーダさんのTKO負け。ローキックであともう一息で倒せるところまでいったが、頬を切りドクターSTOP。試合に負けはしたが、あのまま続けていればわからなかった。そして、その後映画製作が動きだし、本格的につき合いをするようになった。

 平成12年12月9日。引退試合当日は監督はじめ、映画スタッフ、友人そして映画(アンチェイン)の出演者であるアンチェイン梶、永石磨、西林誠一郎を含め応援団は150人にもなる。一般のファンを含めるとどのくらい居るか想像もつかない、すごい熱気。出演者の3人は僕達が感じ取れない、なにかに触発され元ボクサーの血が騒ぐのか、梶さんは自分の事のように緊張し廊下でシャドーを始め、永石さんは自らの後楽園ホールでの試合の記憶を手繰っていた。西林さんは4度目と同様セコンドで支えた。会場の熱気が頂点に達し、試合を迎えた。入場の時ホール観客からは「やめるなー!」「まだやれるぞ!」。ガルーダさんがリングに上がると不思議と穏やかな表情。ホールの興奮と裏腹に落ち着いていた。静かなる闘志。そして試合開始のゴング。

 壮絶だった。チャンピオン小野瀬選手はガルーダさんに対しにこれまで4戦4勝。両者の真向勝負。ガルーダさんは3R左ヒザ蹴りでダウン、負けじと右フックをヒットさせ小野瀬選手のバランスを崩す。4R右ヒザ蹴りでダウン。顔面血だらけのボコボコ。5Rパンチの連打でダウン。再びボディフックでダウン。4度のダウンを喫したがガルーダさんはそれでもチャンピオン小野瀬選手を睨み付けるとフラフラになりながらも、向かって行った。これがキックボクサー、ガルーダ・テツがキックボクシングファンに愛され続けた彼のファイティングスタイル。チャンピオン小野瀬選手はプライドを賭けて倒しにいく。結果は5Rフルに闘い判定負け。

 ガルーダ・テツがすべてを賭け、闘った、キックボクシング人生はリングの上に立ち続けることでここに終わった。
 ガルーダ・テツの引退を告げるテンカウントのゴングの後、ガルーダさんは言った。「私はキックボクシングに感謝しています。」

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ガルーダ・テツ(武本哲治)
 生涯戦績 34戦 16勝(8KO) 14敗 4分