1998年 劇場用映画 『流★星』



製作/配給:株式会社リトルモア
製作協力 :東京テアトル株式会社/フィルムメイカーズ株式会社

1999年 劇場公開作品/カラー/ヴィスタビジョンサイズ/99分


INTORO

 1998年11月1日。
 府中競馬場において、名馬サイレンススズカが競争中の不慮の事故によって命を失ったその日に、映画『流★星』は、東京国際映画祭参加作品として初めて一般観客の前でデビューを果たした……。
 さかのぼること1年ほど前、監督の山仲浩充と脚本家の橋本裕志は東北の地方競馬場めぐりをしていた。山仲のあたためていた企画のシナリオハンティングである。企画の舞台は競馬場のある地方都市。企画はまだ1ページの脚本にもなっておらず山仲の頭の中にだけあった。
 彼からその企画内容を聞かされた時、面白い映画ができるかも知れないとは思ったが、動物、昆虫、草花、つまり自然の産物をあつかった映画はプロデューサーとしては出来れば避けたい企画、No1である。なぜなら彼等は脚本、予定表が読めないからである。にもかかわらず乗ってしまったのは、もしかすると当時リトルモアムービーの企画を進めていたリトルモアの孫と私が無類の競馬好きだった事が大きな要因だったかもしれない。
 しかし、この企画を立ち上げて進行させるには、クリアしなければいけない問題が、最初に、最も大きな問題としてあった。舞台となる競馬場のある地方都市なんて有るのだろうか?ということである。近代化の進んだ日本ではおしなべて小さな東京化している地方都市が多く、この企画で求めている地方競馬場のある地方都市で撮影が出来るかどうかが生命線となっているのである。
 ‘考え過ぎる毛虫は蝶になれない’私は山仲と橋本にシナハンに行ってもらうことにした。しかし報告の電話は‘小さな東京って感じなんですよね’‘昨日○○競馬場で万馬券とりました’‘昨日レンタカーぶつけちゃいました’みたいな報告ばかりだった。‘やはり無理か…’そう考え始めた時、山形県上山市に辿り着いた二人が意気揚々と帰京してきた。理想的な町と競馬場だった。のどかな温泉町と美しい自然に囲まれた競馬場だった。二人の構想はすでに膨らんいる。競馬を愛する老人が競争馬リュウセイを盗む。そしてそれに関わる青年。リュウセイは地方競馬場が誇る名馬で老人になついたり、走りたいと闘争本能を出したり、競馬のシーンがあり、老人が盗んだ馬で疾走するシーンもある。やれやれ、避けたい企画その1の条件を全て満たしたような構想である。しかし面白そうだ。橋本は脚本に取りかかった。
 構想が決まると同時にスタッフが走り回る。馬を走らせるために。
 リュウセイを演ずる馬を探さなくてはいけない。競馬場での撮影の協力を得なければいけない。レースでリュウセイを走らせなければいけない。主人公達の買った馬が勝ったり、負けたりしなければいけない…etc。
 この企画では、何が撮影可能か不可能か、可能に出来るかの確認を脚本と同時進行で進めなければならなかったのだ。
 馬で疾走するシーンもある主人公の老人は緒形拳、青年は江口洋介にお願いすることに決めた。お二人ともいわずと知れた大物で、スケジュールがあるかどうか、受けてくれるかも不安だったが、脚本も完成してなく、未確認条項の多すぎる状態で安易に出演交渉を始められるような相手ではない。
優秀なスタッフの活躍で7割方の確信が持て、キャスティングの交渉もうまく行き上山に乗り込んだのは初夏だった……。
 後は馬がシナリオをちゃんと理解して芝居をしてくれるかどうかが勝負だった。